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第1章 45  信頼できる人物とは

last update Last Updated: 2025-08-10 12:14:24

「スヴェン、リーシャが『エデル』の兵士と仲良くなっていたって本当なの?」

「もちろんさ。さっき温泉に行った時、入り口でリーシャの姿を見かけたから声をかけようとしたら兵士と仲よさげに話していたから驚いたよ。ひょっとして野戦病院で傷病兵の治療に当たっている時に親しくなったのかな……?」

「そうなのね。きっと気があったのかしら?」

スヴェンに動揺している姿を見られてはまずい……。何故なら彼は何も事情を知らないのだから。

それに何よりユダに良い感情を抱いていない。

無事に『エデル』に辿り着くには警戒を怠らず、何も気付いてないふりをして乗り切らなければならないのだから。

すると、何を思ったのかトマスが口を挟んできた。

「ですが、リーシャさんは僕が気付いたときは野戦病院にいませんでしたよ?」

「あ、そう言えばそうだったな。確か井戸で汚れ物の洗濯をしていたって言ってたな。あれ……? うん、そうか。なるほどな」

スヴェンが何か思い出したのか、頷いた。

「どうしたの? スヴェン」

「ああ、今思い出したんだけど、そう言えばリーシャと話をしていたあの兵士の姿もあまり野戦病院で見かけなかったんだよ。ひょっとして2人は一緒に井戸で洗濯をしている内に仲良くなったのかもしれないな」

人の良いスヴェンは2人がどうやって親しくなったのか、自分の中で結論付けてしまった。

「「……」」

けれど、その話を聞いて穏やかでいられなくなったのは私とトマスの方だった。

ひょっとしてリーシャは初めから『エデル』の兵士と内通していた? 今迄旅の途中で彼等の文句を言っていたのは私を油断させる為だったのだろうか?

一度疑心暗鬼にとらわれてしまうと、中々拭い去ることができない。

「どうしたんだ? 姫さん。顔色が悪いぞ?」

スヴェンが驚いたように声をかけてきた。

「そ、そう?」

「ええ、スヴェンさんの言う通りです。王女様、酷い顔色をしていますよ?」

トマスも心配そうに私を見ている。

「大丈夫よ……」

しっかりしなければ。

『エデル』に嫁げば、私はこの先もっと周囲を警戒して生きなければならない。

『聖なる巫女』と呼ばれるカチュアがアルベルトの前に現れ、彼と離婚を成立させるまでは……。

これくらいのことで動揺するわけにはいかない。

私は深呼吸して、気持ちを落ち着けるとスヴェンとトマスに声をかけた。

「心配掛けてごめんなさい。や
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